☕雑談 「自分らしさ」っていったい何？🍵

自分らしさがわかんない

しー:　いきなりですが！　「自分らしさ」ってなんですか………！？

文乃:　わかんない。

しー:　私もわかんない！！　なんか、最近は「自分らしくあろう！！」みたいなメッセージをよく見かけるようになって。例えば「昔、そんな服似合わないって言われたけど、それでも私はこれを着る。これが自分だから！！」とか、髪を派手な色に染めた人が「髪を染めたことでより自分らしくなれた」って言ってたり。

もちろん、自分らしくなれたって思って喜ぶ人がたくさんいるのはいいことなんだけど、私はそういう雰囲気に乗れないんだよね。なぜなら、その人たちみたいに、確固とした「自分らしさ」が、私自身にもわからないから。私は自分の身体が好きなときも嫌いなときもどうでもいいときもあるし、スカートやワンピースを着たいときも、逆にそういういわゆる「女性らしい」とされる格好が嫌で拒絶するときもある。性格の面でも、素直なときも優しいときもあるけど、意地悪で陰湿な時もある。明るくてふざけっぱなしのときもあるし、無表情でどんよりしてるときもある。だから、「これこそが自分！」って言うふうに言える何かが、私にはないんだ。

文乃: なるほどなーーーーー。

しー:それにさ、自分が今「自分らしさ」と思っている何かも、実は他人の模倣や社会の影響を受けたものだったりすることがほとんどじゃん。すなわち、もしも環境が違えば、「自分らしさ」も今よりもっと違うものになってたかもしれないってことじゃん。そう考えると、「自分とはなんなの？」「自分らしさとはなに？」ってことが全然わからなくなるし、「自分」とは環境が違えば今と全然違ったかもしれない存在なのに、躊躇なく「自分らしさ！」って言える人たちのこともよくわからない。どうしてそんなに、「自分」が何者なのかということを、はっきりと把握することができるんだろうって。

文乃: なるほど。

他人への反抗の表出としての「自分らしさ」？

文乃: 私も「これが私」なんてものはいまいちよくまだ分かってないけど、他の人のNOを突きつけてくる視線や声に抗って自我を貫いたその痛みと自負が「自分らしくなれた」ってその人に言わせる気がする。
たとえば私は、昔髪の毛を青に染めたことで本当の自分と出会えた気がした経験があるな。
私の両親はものすごく保守的で、たとえば私がピアスを開けようとしたり、青いマニキュアを爪に塗ったりした時、それを見て「気持ち悪い」「親のくれた身体に傷をつけるの？」ってきつい態度を取ってくるんだよね。
親の理想は、きっともっとナチュラルで女性らしい格好をした異性愛しかしない子供なんだろうね。だから親の理想にそぐわない格好を子供がしていると、否定的な態度でNOを突きつけて、自分が望む子供像に修正しようとしてくる。
そんな中、私が髪の毛を青に染めたのは、青が私の一番好きな色だったこともあるけれど、やっぱり「髪色としては一番不自然な色で、私が奴らの思い通りにはならない事を見せつけよう」って気持ちもあったわけ。
そういう強い決意というか、親の抑圧を跳ね除けたい祈りと共に髪を青くしたんだよね。　

しー:　なるほど。あやのにとってはそれが、自分が100%やりたいことというより、抑圧的な親への反抗を示す象徴しての身体加工でもあったのだろうね。「他の人に何言われても自分がやりたいことをやる！」って言う気持ちに、「だってそれが自分らしさだから！」って付けると上手くまとまるよね。でも、その人たちが、誰にもなんにも言われなくて反抗しなくてもいいような環境にいたら、その人たちがどのように「自分らしさ」を表現したのか？ということも気になる。「自分らしさ！」って声を大にして主張しなきゃいけないのは、ポジティブなものにしろネガティブなものにしろ、何かしら、自分の置かれた状況に対して不満がある状態だからだと思うからね。

わたしも、マニキュアの色や服装に対して親から「その色なんなの？」「その服何なの？」って言われたことはあるし、それはすごく嫌だった。けど、言われたからってやめなくていいか〜って思って続けたのね。でも、それを「自分らしさ」だとは思えなかった。私はその色や服が好きだけど、そのことを自分らしさと表現しようとは思えない。だって、「自分」が何なのかわかんないのに、「自分らしさ」なんてもっとわかんないから。そして私は、「自分らしさ」を誇ることを自分も求められてるような気がして、その状況に不安を抱いている。笑　他のみんなはそんなに、「自分」についてはっきりと分かっているのかな？って。

ダサいのも「自分らしさ」に含まれますか？

しー:あと、「これが自分らしい格好」って言うふうに誰かがいうとき、それって大抵なにかを「してる」ときのことを指してるんだよ。例えば、「自分らしいメイクをする！」「自分らしいネイルをする！」「自分らしい髪色をする！」っていうのはあってもさ、「メイクをしないことが自分らしさ！」とか、「ネイルとか、いわゆるおしゃれをしないことが自分らしさ！」っていうのはあんまり見かけない。この非対称性は一体どこに起因するんだろう？とも思うよね。

文乃:たしかに〜。
他人の目を気にせず我が道を歩いて、その姿が「いいね！✨」って言われるのってお洒落なやつだけだもんね…。

しー:ほとんどの場合、そのように思えるね。
だってさー、今から、超性格悪いこと言うんだけど！「みんな自分らしく好きな格好しような！🔥」みたいなメッセージよくあるけどさ、たとえその「好きな格好」が超ダサくてキラキラしてなくても、「素敵！！✨あなたらしいね！素晴らしいよ！！」って、心から言ってくれるの？笑

文乃:あーーーー！
なんかさ、わかるわ。
私、大学の専攻の関係上、同じ専攻の子達が皆独自路線を突き進んだファッションしてるんだよね。
バンギャっぽかったり、病み可愛い感じだったり、原宿とか彷徨いてそうなギャルだったり、メンズ服着こなしてたりさ。それで、皆趣味がそれぞれ違うんだけど、お互いにお互いのファッションについて「いいね！」って言い合うの。それがすごく良いなぁって思ってたんだけど、いま思うと皆ハイセンスの塊だからな〜〜〜。色を操って自分らしさを演出する事を楽しんでいる人たちだから。
たとえキラキラしてないのがその人らしさだとしても、例えばセックスエデュケーションの主人公オーティスは物凄くダサいんだけど、「そのダサさがあなたらしくて素敵」とは言われないんだよね。
私はオーティスのそのダサさが落ち着く感じでいいなとは思うけど、それは多分一般的な価値観ではないしさ〜〜

しー: いや〜〜〜〜〜！！！😭😭残酷な現実………！笑　それってつまり、「たとえどんな格好でもあなたらしくて素敵だね」ではなくて、「最低限度おしゃれでハイセンスなら」、映えある『あなたらしさ』の称号を与えてあげましょうっていう不文律があるってことじゃん…！！もちろんすべての場合がそうではないかもしれないけど、でも結構そういう場合って多くない？

文乃:多いね！とても！！！！
雑誌とかでもよくキラキラしたお洒落が「自分らしさ」として持ち上げられてるのを見ると、お洒落とかキラキラしたものがいかに資本主義と結びついて利用されやすいのか〜とか色々思っちゃうよね。

しー:うん。……………やっぱ私、だめだわ！笑　
そういう風潮には馴染めない。し、馴染めなくていいや。
私ってたま〜にしかお洒落しない、普段は格好に無頓着な人間だから…。だから、「あなたらしいファッションを大切にして！！」とか言われてもピンとこないんだ。そもそも私はおしゃれじゃないから、「私らしい」こだわりってものがないんだもん。

文乃:服に拘らなきゃいけないって圧、あるんだろうね。
私は自分が纏う色への拘りが強くて考えるのがすごく楽しいんだけど、よく考えたら、もし男だったらメンズ服はあまり色の幅が広くなくて、服に無頓着でも「まぁまぁそんなもんだよね〜」って受け入れられるわけでしょ？
性別でも非対称的だと思うな〜。

しー: あやのは毎日服装のことよく考えてるよねえ。私だったら毎日こだわって考えるのはめんどくさくてかなわんわ。笑
服にこだわれっていう圧というか、服にこだわったおしゃれな方が、何らかのヒエラルキーの上位に立つみたいなことは、なんか、あるよね…。

文乃:あるねぇ〜
それはめっちゃあるよね。お昼のバラエティ番組とかでコーディネート勝負とかしてたり、あとお洒落番長を自称する有名人が通りすがりの一般人の服装を「お洒落にランクアップさせる」とか、そういう企画も目にしたことがある。カジュアルにナチュラルに無意識下にそういうヒエラルキー出来上がってて私たちの生活に溶け込んでるよね……。
ダサいよりはお洒落で拘ってる方がいいよねっていう雰囲気……。
その流れには私もお洒落な方だから取り込まれかけてて、そういうお洒落至上主義って新自由主義とか資本主義に取り込まれやすいから気をつけなきゃな〜って思いつつも、現状それに対して声をあげているコンテンツがあまりにも少ないという気持ちもあるな。
もっといっぱいお洒落しない人のための物語があれば、私も流れに抗いやすいのかも知れない……。

しー:うん。それに性別のことも、たしかにね。女性の「私らしく」はよく聞くけど、男性の「俺らしく」はそれに比べたらあんまり聞かない気がするよ。やはり女性の方に装飾の文化とか、自分を客体化する文化が強く根付いてるから、その分服装にこだわらないといけなくなる。そしてそのこだわりを表現する言葉のうち現代社会において最も適当なのが「私らしい」「自分らしい」と言う言葉なんだと思う。それから、自分を男や女という性別に区分けしない方（ノンバイナリーなど）とか自分の性別がわからないとかいった、マイノリティ属性の人たちは、いわゆるシス男やシス女といったマジョリティに囲まれて生きることの抑圧を感じる中で「自分らしさ」にこだわる必要が出てきがちなのかもしれないね。

文乃:それめっちゃあるわ〜
私は自分の性別を決めたくないからノンバイナリーもしくはクエスチョニングってことにしてるんだけど、それもあってか(関係ないかも知れないけど)女性性盛り盛りの格好が嫌でしっくり来なくて、刈り上げたりメンズ服とか着こなすようにしてて。
そうするとこの世の中じゃ、女が髪の毛を刈り上げるだけで「レズなの？」「男の子みたい」とか失礼なこといっぱい言われるし、教育実習では「(女が髪の毛を刈り上げてるなんて)教育に悪い」って追い出されるし、逆境に立ち向かってる感がすごいんだよね。見た目から女性性削いでるだけなのに笑。
事あるごとに「なんで？」って理由を求められるから「自分らしさ」に拘らざるをえないよね。

しー:そうなんだ。それって、何らかの属性を理由に受けるジャッジから逃れるための、「女らしさじゃなくて自分らしさを大切にしているから」みたいなことだよね。でも、自分らしさって一体なんなんだろうね。

なんか私が何に対してもやもやしてたのかわかった気がする。　　
今って、どんなに「自分らしさ」とか「自由」を謳っている作品でも、結局圧倒的に服装や外見にこだわる人の物語しか、ないんだと思う。 おしゃれしたり,お化粧することが大前提になってる。そこにはおしゃれもあんまりしないし化粧もしない、私のような人間の物語がないんだよ。

劇団雌猫原作の「だから私はメイクする」を読んだときも、はっきりと「これは私のための物語ではない」と感じた。みんなカテゴリーは違えど、結局女性ジェンダーという枠組みの中で、自分のこだわりをもっておしゃれやメイクする、美容する人たちの話だったし、自由に楽しもう！みたいな雰囲気で描かれてるけど、結局お化粧や脱毛といった、伝統的に女性に要求されてきた美容行為が、ほとんど大前提になっていた。私はそこに全く自由を感じない。劇団雌猫さんのスタンスとか作品に共感して肯定された気分になったっていう人のほうが多いと思う。でも、私みたいなのもいる。少数派だからこそ「私はこれでは勇気づけられない、もっと別な物語を求めている」「私は化粧が自分らしさや自己肯定と結びつかない」って言うことに意義があるんじゃないかな。

「自分のため！！」「自分らしく！！」っていうなら、おしゃれしたりお化粧したり脱毛したりしない人間のことだって、それらのことをする人たちとおんなじくらい肯定的に描くのが筋じゃない？（笑）

それから、おしゃれや化粧を「する・しない」という行為や選択を「自分らしさ」という紋切り型の枠組みの外に置いて考えることも必要だと思うな。なぜ、自分らしさに外見がそれほどまでに強く結びつくのか、考えないといけない気がする。

こういう不満を持つ人、目立たないだけで結構私のほかにもいるんじゃないかと思う。
今私のための物語がないなら、自分でそれを作っていくしかない。
私は「自分らしさ」もわかんないし、「自分のため」のおしゃれやメイクにもピンとこない。でも、それでも私はこうやって生きてるよ～っていう風にね。　

2021年八月企画「私とポストフェミニズム」【口紅とフェミニズム】（しー🌃）

☆本記事は、2021年8月の企画「私とポストフェミニズム」noteを移行したものです。

サークルアイスの今回の企画は、メンバー一人一人が「わたしとポストフェミニズム」という題でエッセイを書くことです。本記事　しー🌃　のエッセイ「わたしとポストフェミニズム」をお送りします✍✍

わたしとポストフェミニズム　

　　　　　　　　　　　　　　　　　　筆者：しー🌃

〇わたしのフェミニズム／ポストフェミニズムとの出会い　

大学生のころからフェミニズムに興味を持ち始めた私は、少しずつ本や論文を読み始めるとともに、TwitterなどのSNSでもフェミな方々と交流するようになっていきました。Twitterをみていると、一人ひとり私と同じ時間を生きている方々が、生身の経験から基づいた言葉をリアルタイムで発信しているのを見ることができました。それによって私は、自分と同じような社会への違和感、志を持った人たちが本当にいるんだ、と安心したことを覚えています。
　しかし、同時に、女性をエンパワメントする「フェミニズム」のように見える言説の中にも、突き詰めれば従来の女性ジェンダーの規範から抜け出していないような価値観を内包しているものが潜んでいることに、気が付きはじめました。具体的に言えば、従来のジェンダー規範が女性に要求してきた「男性に守られたいという欲望」「外見の美しさへの欲望」のような「女性らしさ」を「自分らしさ」などとと言い換えることで、外部から規定されジャッジされた「女らしさ」という形ではなく、あたかも完全に自分たちの手の中に取り返した「『自分』らしさ」のように扱い、自分たちの欲望や行為は「フェミニズム」によって100％擁護されうることだとして無批判に称揚する雰囲気があるような気がしはじめました。私はそのことに違和感を覚えつつも、言語化することの難しさを感じ悶々としていました。

〇ポストフェミニズムについて／「リップスティック・フェミニズム」

　調べるうちに、そういった言説や雰囲気が「ポストフェミニズム」という現象・雰囲気に派生するものであることがわかっていきました。
　日本のポストフェミニズム論者である菊地夏野先生は、ご著書「日本のポストフェミニズム　女子力とネオリベラリズム」の中で、欧米産の概念であるポスト・フェミニズムを日本の女性たちがおかれた状況に照らし合わせ、「日本のポストフェミニズム」とはどのようなものか、という視点で書かれています。菊地先生は、欧米のポストフェミニズム論を紹介し、ポストフェミニズムではネオリベラリズムと呼応したものであることを指摘し、次のように書かれています。

「ポストフェミニズムとは、何かの思想や政治的立場のような明確な内容をもつもの では なく、現在の社会の多くに浸透している社会意識や言説の一定の傾向を指している。」
「しかし、多くの論者の指摘に共通するのが、「女性の成功」を称揚するというポストフェミニズムの特質である。フェミニズムは女性の集合体としての社会的地位の向上を目指し たが、ポストフェミニズムにおいてはあくまで個人的な成功に価値がおかれる。」
（菊地 夏野. 日本のポストフェミニズム: 「女子力」とネオリベラリズム ）大月書店.より）

そして、これは菊地先生の書かれていることとは別のソースからの情報ですがポストフェミニズム的な流れを汲んだ「リップスティック・フェミニズム」と名付けられた潮流もあるようです。以下はヨーロッパの英語メディアの文章（Arianna Marchetti” Lipstick Feminism, Neoliberalism & the undoing of Feminism” 1st Arpril,2020）ですが、一部引用し、翻訳させていただきます。

“Lipstick feminism is a third wave feminist movement that supports the idea of accepting and embracing femininity to help women’s empowerment. Quite literally, lipstick feminists believe that wearing makeup and sexy clothes does not make you less of a feminist, on the contrary, it means taking control of society’s beauty standards and reclaiming what belongs to women. The underlining idea of lipstick feminism is that traditional feminism is entrenched in a negative attitude towards femininity and discourages women to pursue what is traditionally seen as female. This self-imposed deprivation is seen as yet another form of oppression towards women and as an obstacle to their liberation.”

（翻訳）「リップスティック・フェミニズムとは、女性のエンパワメントに役立てるために女性らしさを受け入れ、包含するという考えを支持する、第三波フェミニストの運動である。リップスティック・フェミニストたちは文字通り（その名前の通り）、女性が化粧をすることやセクシーな衣服を身に着けることが、彼女たちをフェミニストでなくさせることはないと信じている。反対に、（女性が化粧をすることやセクシーな衣服を身に着けることで）社会の美の基準をコントロールし、女性たちのものを女性自身の手に取り戻すことになるというのだ。
　リップスティック・フェミニズムの根底にあるのは、伝統的なフェミニズムは女性らしさに対する否定的な立場に凝り固まり、女性が伝統的な女性らしさを追い求めることに対して水を差してきた、という考えである。この、フェミニズムが自主的に課してきた（女性らしさおよびその欲望の）はく奪が、女性に対する別の形の抑圧になっており、女性の自由を妨げるものだと見られているのである。」　　

上記の文章は、以下のようにも語っています。

”The real danger of lipstick feminism does not lie on its approach to make up, way of dressing and the like, but on its complicity with neoliberalism.”

（翻訳）リップスティック・フェミニズムの真の危険性とは、化粧することや、どのように装うかということなどへのアプローチではなく、ネオリベラリズムとの共犯関係の中にあるのだ。

リップスティック・フェミニズムはもちろん欧米産の概念ですし、日本においてはリップスティック・フェミニズムという概念そのものはあまり浸透していません。私も、今回色々調べていく中で、初めて「リップスティック・フェミニズム」という言葉に出会いました。しかしながら、日本においても上記のような現象と同じような雰囲気や、それに伴った言説が存在しているのではないでしょうか。
実際、「化粧や脱毛をすることはフェミニズムと矛盾しない、女性にとって自分のための、自由意思による主体的な行為である」ということを強調するような言説を私はよく見かけました。それは時に、女性たちが化粧や脱毛といった、伝統的に女性に要求されてきた美の実践、そしてそれを「自由に選択」し実践することによって勇気づけられ、そのこと自体がフェミニズムによって100％擁護されうる、というような書き方であることもあります。
　私はまさに、そのような事象に違和感を覚えていました。
自分の中に従来のかわいさや美しさなどの「女性らしさ」のようなものを「自ら望んで」追い求める気持ちがあること、そしてそれを実践すること。もちろんそのこと自体は誰にも責められるべきではないと思います。
しかし、女性らしさへの欲望を無批判に肯定し、自分たちのエンパワメントとして称揚することだけが「フェミニズム」の試みだと言えるのでしょうか。本来、フェミニズムとは、「その欲望はどこから来て、その達成によって女性が何を得て、そして何を奪われるのか？」「女性の経済力と、女性間の経済格差、そして化粧や脱毛などの美の実践の関係はどのようなものか？」「自分たちがたまたま適応できている規範から疎外された他者は、どのように排除されうるのか？」「自分たちの言説や行為がその排除に加担している可能性はないのか」といった、ラディカルな問いかけを絶えず自分や社会に投げかけ、考え続ける試みではなかったのでしょうか。

〇矛盾したくない気持ち

これは完全なる私の持論ですが、いわゆる「ポストフェミニズム」や「リップスティック・フェミニズム」言説の原因として、社会的背景や新自由主義への適応の必要に乗じて、という大きな流れと呼べるもののほかに、女性たちの「矛盾したくない気持ち」があるのではないかと思っています。私は、自分の女性らしさへの欲望と、フェミニズムという思想は時に矛盾すると考えています。日々労働や勉強し、自分の人生におけるさまざま悩みや関心事を抱えながら必死に生活している…その中で自分が「楽しい」と思えることと、自分の思想との関係性・矛盾を考えることは、決してたやすいことではありません。加えて、矛盾しているということそのものが責められるような風潮がはびこっている中で、自分の中に矛盾があるということですら許せなくなってしまうのではないでしょうか。そして「フェミニズム」の名のもとに、すべてを無批判に肯定するような言説が生まれていくのではないか…おおざっぱですが私はそのように考えています。
しかし、必要なのは、自分の中の矛盾を正当化し覆い隠すことではなく、矛盾の存在を認め、矛盾とそれが生み出される背景について考えることではないでしょうか。

〇まとめ
　今回、「わたしとポストフェミニズム」という課題を設定したのはほかならぬ私自身でした。「ポストフェミニズム」について勉強中なので、未熟で中途半端な内容になってしまったかもしれませんが、今の私が書けることは以上です。
また、書き終わった今、非常に反省していることがあるのですが、それはこのエッセイの内容が「わたしとポストフェミニズム」になったかどうかわからないということです。「自分を顧みて、自分と違う他者へ視野を広げられるようなラディカルな問いかけをすべきだ」と偉そうなことを書いておきながら、私は「わたしの『中の』ポストフェミニズム」について書くことができませんでした。これは大変不誠実な姿勢だったかと思います。
言い訳のように付け加えておけば、私も普段自分の中でフェミニズムとの矛盾を感じながら日々生活しています。自分が実生活の中で思想と矛盾するのはもう仕方ないので矛盾を抱えながら生きるが、議論の方向性としては、批評性を欠かないようなものになるよう気を付けていけたらいいのかなと私は考えています。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

〇参考文献

　・菊地夏野「わたしとポストフェミニズム　女子力とネオリベラリズム」2019年、大槻書店

Arianna Marchetti” Lipstick Feminism, Neoliberalism & the undoing of Feminism” 1st Arpril,2020
＜https://www.youngfeminist.eu/2020/04/lipstick-feminism-neoliberalism-and-the-undoing-of-feminism/＞

★今回の参考文献ではないですが、ポストフェミニズム論と似たような問題意識をもって書かれた文献など、ポストフェミニズム論を深めるうえで役に立ちそうなものをいくつか紹介させていただきます。

①Choose大学　3月第1回「政治とは何か？」フェミニズムと政治ーイントロ 森発言からー 講師：菊地夏野（社会学者）
こちらは、菊地夏野先生が全四回にわたって、フェミズム・ポストフェミニズム論・ネオリベラリズムに関して一回三十分ほどの講義を行っているChoose大学のシリーズの第一回になります。本を読む余裕や時間がない方も、Youtubeなら少し気軽に見てみることができるのではないでしょうか。

②ユリイカ2020年九月号「特集・女オタクの現在－推しとわたし」88ページより、水上文「＜消費者フェミニズム＞批判序説」2020、青土社
　こちらの号および文章はTwitterの一部界隈ではかなり話題になっていたのでご存じの方もいらっしゃるかもしれません。本論では創作サークル劇団雌猫さんに代表される「浪費肯定スタンス」を批判しつつ、消費主義とオタク、フェミニズムの関係性について書かれています。リップスティック・フェミニズムも結局、より消費行動をするよう、女性にはたらきかけるものなので、そのことと劇団雌猫さんの浪費肯定スタンスを照らし合わせて考えてみても面白いかもしれませんね。